腫瘍が発生するリスク因子はあるのか?

腫瘍は遺伝子の変異(ミス)により起こる病気です。そのリスクを上げる要因がわかっているものもあります。

すなわち、このリスク因子を回避することが、ある特定の腫瘍を予防することにつながる可能性があります。

今回はその腫瘍が発生するリスク因子についてお話しします。

腫瘍の発生に関与する因子

腫瘍の発生に関与する因子は大きく4つあります。

  1. ホルモン(内分泌)の影響
  2. 物理的な刺激の影響
  3. 化学物質の影響
  4. 遺伝的影響

それでは一つ一つお話ししていきましょう。

1. ホルモン(内分泌)の影響

ホルモンはからだの内分泌腺と呼ばれる組織で作られる物質のことです。内分泌腺には生殖器、下垂体、甲状腺上皮小体膵臓、副腎があり、それぞれの組織で別々の作用を持つホルモンを作って出しています。

この中でペットの腫瘍の発生に関連している内分泌組織の代表が生殖器です。

すなわち、避妊手術、去勢手術をすれば防げる可能性がある腫瘍があります。

 

犬の避妊手術で防げる腫瘍

  • 卵巣腫瘍
  • 子宮腫瘍
  • 乳腺がん

この中で特に多くの女の子で問題になるのは、乳腺がんです。

避妊手術を早くすると乳腺がんの発生率が下がります。

はじめの発情が来る前に避妊手術をした場合には0.5%、2回目の発情前に避妊手術をした場合には8%、2回目あるいはそれ以上発情が来てから避妊手術をした場合には26%乳腺がんになるリスクがあると言われています。(Schneider et al. 1969)

2回目の発情が来てしまった場合でも、2.5歳以下で避妊手術を受けた場合と2.5歳以上で避妊手術を受けた場合では、2.5歳以下で避妊手術を受けた場合の方が顕著な乳腺がんのリスク回避効果があると言われています。(Schneider et al. 1969)

 

猫の避妊手術で防げる腫瘍

  • 卵巣腫瘍
  • 子宮腫瘍
  • 乳腺がん

やはり猫でも避妊手術により乳腺がんの発生リスクを下げることができます。(Misdorp et al. 1991)

避妊していない猫では7倍乳腺がんになるリスクが高まります。(Dorn et al. 1968)

避妊手術を生後6ヶ月までに実施した場合には91%乳腺がんになるリスクが減少し (OR 0.9, CI=0.03-0.24) 、1歳までに実施した場合には86%減少すると言われています (OR 0.14, CI=0.06-0.34) 。(Overley et al. 2005)

犬の去勢手術で防げる腫瘍

  • 精巣腫瘍
  • 肛門周囲腺腫

犬も精巣は人と同じように2つもっています。

精巣腫瘍は特に潜在精巣といって、子どもの時に陰嚢に精巣が落ちてこないで、お腹の中や股の皮膚の下に精巣があるような子で発生率が上がります。

去勢していない子では陰嚢を触ると精巣が2個触れるはずなので、それが1つしかないあるいは2つともない場合には潜在精巣の可能性が高いです(慣れていないとわかりづらいかもしれないので、獣医師に確認してもらいましょう)。

たまに、潜在精巣だとわかっていても去勢手術をしていない子もいますが、精巣腫瘍の中にはとてもタチが悪い(腫瘍が進行してから手術しても手遅れになる子がいる腫瘍)ものもありますので、わかっていたら腫瘍になる前に去勢手術をしてあげるのが賢明だと思います。

 

肛門周囲腺腫という名前は聞いたことがない方がほとんどだと思います。

肛門周囲腺腫は肛門周囲腺という皮脂腺が変化した細胞の良性腫瘍です。

去勢していない男の子にできることが多い皮膚にできる腫瘍です。

肛門の周りの皮膚にできることが多いですが、その他にもしっぽや太もも、陰嚢、包皮、股の間などの皮膚にもできることもあります。

 

猫の去勢手術で防げる腫瘍

  • 精巣腫瘍

猫の精巣腫瘍の発生はもともと少ないです。

動物の手術のイラスト(猫)

2. 物理的な刺激の影響

さまざまな物理的な刺激が発がんに関連している可能性が言われています。

これらの刺激がすべてのがんの原因となるわけではなく、ある特定のがんの一要因となっている可能性が言われています。

物理的な刺激となり得る要因

  • 日光(紫外線)
  • 放射線
  • 電磁波
  • 外傷、慢性炎症
  • 手術のインプラント(骨折の治療などで入れたプレートやスクリューなど)

特にこの中で注意が必要なのは、日光(紫外線)と慢性炎症です。

 

日光に当たっている時間が長い白い猫ちゃんは、皮膚の扁平上皮癌というがんに注意が必要です。

特に耳や顔面などの毛が薄くて日光に当たりやすい部分に発生しやすいです。

このがんは初期の頃は一見して傷のように見えるのですが、進行してくると潰瘍のようになってきます。

なので、白い猫ちゃんは過剰に日光(紫外線)に当たらないように心がけることが予防につながります。

白い猫のキャラクター

慢性炎症としてもう一つ注意しなくてはいけないのが、猫ちゃんのワクチンです。

あまり知られていないかもしれませんが、猫ちゃんはワクチン(厳密にはワクチン以外でも発生する可能性はあります)に関連して肉腫というがんができることが非常に稀にあります。

稀ってどのくらい稀かというと、10,000頭につき1-16頭の割合といわれています。 (Small Animal Clinical Oncology) 

また、やっかいなのがこのがんは完全に手術で取りきるためには、物凄く大きく切除する必要があります。

背中にこのがんができてしまうと手術で完全に取り切るのが難しくなる場合があるので、猫ちゃんにワクチンを打つ時には背中には打たずに、肘や膝より下やシッポの先に打つ方が良いです。

これはもしこのがんになってしまった場合に、手術で完全に取り除くことがしやすくなるからです。

ワクチンのイラスト注射器のイラスト

3. 化学物質の影響

発がんに関連した化学物質がいくつか知られています。

これらの物質もすべてのがんの原因となるわけではなく、ある特定のがんの一要因となっている可能性が言われています。

  • タバコの副流煙
  • 除草剤
  • 殺虫剤

タバコの煙と犬のがん

タバコの煙というと一番に思い浮かぶのは肺がんだと思いますが、犬ではタバコの副流煙と肺がんの関連性は弱いと言われています。(Reif et al. 1992)

しかしながら、長頭種の犬を飼っている場合には、鼻腔のがんのリスクが上がると言われているので (OR 2.0, CI 1.0-4.1)、タバコの煙には注意した方が良いかもしれません。(Reif et al. 1998)

タバコの煙と猫のがん

猫ではタバコの煙は口腔内扁平上皮癌の発生リスクをあげると言われています (飼い主が1日1-19本のタバコを吸う場合、RR 4.0, CI 1.1-14.8, P=0.037)。これは煙を吸うというよりは、毛についたタバコの煙の成分を舐めてしまうことによるのかもしれません。 (Bertone et al. 2003)

さらに、リンパ腫の発生リスクもあげると言われています(RR 2.4, 95% CI 1.2-4.5)。(Bertone et al. 2002)

やはり、タバコを吸う本数が多い場合や、猫が煙に曝されている期間が長い方がリスクが高くなるので、注意が必要です。

タバコを吸う人のイラスト(男性)

治療などに使うお薬や薬剤とがん

発がん性があると言われている抗がん剤(クロラムブシル、ドキソルビシン、シスプラチン)や免疫抑制剤(アザチオプリン)、検査に使うホルマリンへの暴露は注意が必要です。

その他の化学物質とがん

猫ちゃんのノミとり首輪やマグロの缶詰は猫の口腔内扁平上皮癌のリスクをあげると言われています。(Bertone et al. 2003)

フェノキシ系除草剤を使っていた庭をもつ家庭のスコティッシュテリアでは、膀胱移行上皮癌のリスクがあがる可能性が言われています (OR 4.42)。(Glickman et al. 2004)

 

4. 遺伝的影響

遺伝性のがんとして、原因となる遺伝子の変異がわかっているものは、ジャーマンシェパードの腎嚢胞性腺癌と結節性皮膚線維症です (BHD遺伝子)。(Lingaas et al. 2003)

 

まとめ

  • 腫瘍が発生するリスクを知れば、予防ができる腫瘍もある
  • 特に女の子は早いうちに避妊手術をすることで、乳腺がんになるリスクを減らせる!
  • 上記でお家のペットや環境と当てはまることがあれば今から気をつけましょう