治療の目的〜獣医師との作戦会議〜
「がん」を治療するにあたり、治療の目的をどこに持っていくかが重要になります。
すべての「がん」が治れば良いのですが、すでに転移してしまっている場合や転移率が高い「がん」の場合には治すことが難しい場合もあります。
大切なのは、その「がん」の性質と現在の状況を合わせて治療を組み立てることです。
とある先生が、『病気のインフォームは飼い主さんとの作戦会議だ』とおっしゃっていました。
すなわち、同じ「がん」にかかっても動物の状況、飼い主さんのご家庭の事情、今まで飼ってきたペットたちとのお別れの状況などなどから、それぞれの飼い主さんで治療の目的をどこに持っていくのか、すなわち治療の選択肢が変わってきます。
治療の3つの目的
治療の目的には以下の3つがあります。
- 根治治療
- 緩和治療
- 予防的治療
根治治療
「がんを完全に治すことを期待して行う」治療のことです。
目的はそのままですが、「がん」を完全に治すことです。
その目的を達成するためには、機能欠損(例えば断脚など)や外貌の変化などの犠牲を払うこともあります。
緩和治療
根治治療が適応とならない動物に対して「QOL(生活、生命の質)の改善を期待して行う」治療のことです。
QOL=Quolity of Lifeとは日本語では「生活の質」「生命の質」と訳されます。すなわち、QOLの改善とは「がん」による苦痛を軽減し、日常をその子らしく過ごさせることです。
目的は、「がん」による苦痛を減らすことです。
なので、必ずしもすべての患者さんで治療をしたからといって余命が伸びるわけではありません。
緩和治療に治療の目的を据える場合は具体的には…
- すでに転移してしまっている場合
- 今は転移していないけれども、非常に転移率が高い「がん」の場合
- 全身性に発生している「がん」の場合
- 手術で完全に取り切ることが難しい「がん」の場合
などが挙げられます。
緩和治療はQOLを改善することが目的ですから、治療の選択はメリット・デメリットを考えて行います。
例えばすでに転移がかなり進行しているような患者さんで、原発巣(おおもとの「がん」)をかなり侵襲度が高い手術でとっても意味ないどころか、手術の影響で体力を消耗しQOLを下げてしまうなんてこともあり得ます(原発巣が原因で困っている場合には例外もあり)。
予防的治療
「腫瘍になることを防ぐ」目的でする治療です。
以前に書きましたが、腫瘍になるリスク因子がいくつかあります(興味がある方は以下をご覧ください。)
一番分かりやすいくて有名なのが、乳腺腫瘍です。
乳腺腫瘍は犬も猫も早期の避妊手術で発生率を減らすことができます。
なので、将来乳腺腫瘍にならないために、子犬、子猫のうちに避妊手術をすることを考えてください。
ホルモン以外のリスクファクターも色々あります。該当がある場合には、気をつけてください。
まとめ
・治療には根治治療、緩和治療、予防的治療の3つの目的に分けられる。
・治療の目的を明確にしよう。
・目的を理解した上で、獣医師との作戦会議に臨もう!
がんが疑われたらどんな検査をするの?
ある時ふとペットのからだを触っていたらしこりが…
そんな時はあまり様子を見ずに病院に行きましょう。
病院に行くと痛いことされるんじゃないかと心配になる方もいらっしゃると思うので、病院ではどんな検査をしていくのかお話しします。
ちなみに皮膚など目に見える部分にあるしこりは飼い主さんや、トリマーさんが見つけて病院に来ることが多いですが、お腹の中や胸の中、血液系のがんは調子が悪くなってから見つかることも多いです。
人と同じようにペットも早期発見、早期治療が基本ですので、歳をとったら定期的に健康診断を受け、外から見えない内臓のチェックをしてもらいましょう。
ちなみに、血液検査でいろいろわかると思っていらっしゃる飼い主さんも多いですが、がんを発見するには、触診やレントゲン検査、エコー検査をしていく必要があります。
問診
まず獣医師は飼い主さんからお話しを聞きます。
どんなことを聞かれるかというと…
しこりの場所
いつからあるのか?
しこりのサイズや見た目は変化あるか?
痛みはありそうか?
今まで何か検査を受けているか?
今まで治療を受けたことはあるか?またその治療に反応して小さくなっているか?
今までがんを取ったりした既往歴はあるか?
基礎疾患があるか?
触診(視診)
基本的には痛みなし(骨の病変などは痛みを伴うことがあります)
触診とは実際に獣医師がしこりを触ったり、リンパ節を触ったりすることです。
皮膚のしこりは直接触れますし、お腹の中のしこりも全てではありませんが、よく触るとわかることもあります。
胸の中のしこりは流石に触ってもわかりません。
お口の中はお利口にしてくれる子でしたら見れますが、どうしても噛んでしまうような子の場合にはお薬を使った麻酔や鎮静処置が必要です。(獣医師は動物の取り扱いには慣れていますが、手を噛まれてしまうと仕事が出来なくなってしまいますし、神経的な麻痺が出てしまうと手術も出来なくなってしまうので、ご理解ください。)
どんなことを見ているかというと
- どこから発生しているのか?
- 何センチあるか?(定規で測って治療反応をみる時にも参考にします。)
- 周囲の組織とくっついているか?
- 柔らかさや硬さは?
- 周りのリンパ節は腫れていないか?
細胞診検査
ちょっとだけ痛い
細胞診検査は細い針でしこりを刺し、しこりの中の細胞をごくわずかにとってくる検査です。痛みはワクチンなどの注射の時と同じぐらいです。
しこりは見た目だけでは、悪いものか悪くないものかわかりませんので、基本的にはこの検査をすることが多いです(もちろん状況によって、例えば肺のしこりや甲状腺のしこりなど、播種が懸念される場合や出血リスクが高い場合にはやらない場合もあります)。
パパッと顕微鏡で見て、問題ないしこりとわかることも多いですが、場合によっては臨床病理医という細胞を見る専門の先生に検査を出して診断書を書いてもらう場合もあります。
細胞診検査では、非腫瘍性病変(炎症、過形成)なのか腫瘍性病変なのか?
腫瘍であれば、良性?悪性?どう言った系統の腫瘍なのか?といった情報が得られます。
すなわち、この検査によりあまり気にしなくても良いしこりなのか、あるいは治療が必要なしこりなのかということがある程度わかります。
レントゲン検査
基本的には痛みなし(やはり骨の病変などはポーズにより痛いことがあります)
レントゲン検査は、しこりがある局所の状態を把握する目的(例えば、骨が溶けていないかとか)と他の臓器に転移がないかチェックするためにする検査です。
しこりがある局所のレントゲンを撮影するかは、患者さんによって異なります。
一般的に「がん」は肺に転移することが多いので、ステージングと言って今「がん」がどこまで進行しているかを確認するために胸部(肺)のレントゲンを撮影することが多いです(「がん」の種類によって転移しやすい部位は異なりますので、例外はあります)。
超音波検査
基本的には痛みなし
しこりの局所の状態を見る目的と、リンパ節や他の臓器に転移がないかを見る目的で実施します。
もしリンパ節などが腫れている場合や他の臓器に転移が疑われる場合には、転移がないか超音波ガイド下で細胞診検査を実施することがあります。
ちなみに、このような検査で偶発的にしこりとは関係ない、別の病気が見つかることも結構あるんです。
組織生検
痛みあり(鎮静や局所麻酔、全身麻酔が必要)
細胞診検査で診断がつかない場合には、しこりの正体を明らかにするためにしこりの一部を検査用に取ることがあります。
細胞診検査より診断精度が高いです。
基本的には診断が一度でつくことが多いですが、腫瘍細胞は取れず、腫瘍の周りの炎症の部分だけ取れてきたりして、取ってくる部位によって診断が変わってしまうことがあります。
そのため、獣医師が臨床的に腫瘍を強く疑っている場合に、それとは反する結果が返ってきた場合には、何回か検査を繰り返すことがあります。
CT検査、MRI検査
基本的には痛みなし、全身麻酔が必要、費用がかかる
場合によっては検査ができる施設に紹介してもらう
場合によって、さらに進んだ画像検査をすることがあります。
これはしこりの局所を見る(どこから発生しているか?どのくらい浸潤しているか?血流はどうか?手術をする場合には手術計画に役立つなどなど)、転移がないか見る(転移をしていたら手術適応にならないことがあります)目的で実施します。
まとめ
これらの検査をどこまでする必要があるかは、獣医師が判断します。
検査の結果によって、しこりの正体、浸潤の程度、転移の有無が分かります。
これにより適切な治療を選択することになります。
がんは転移する
がんはどうやって転移するの?
以前お伝えしましたが、簡単に言うと「がん(悪性腫瘍)は転移する腫瘍」、「良性腫瘍は転移しない腫瘍」です。
ではがんはどういう道を辿って転移をしていくのでしょうか?
転移しているかどうかで、治療の目的をどこに持っていくかが変わってきますので、転移を調べることは大切なポイントになります。
主な転移の仕方は3つある
- 血行性転移
- リンパ行性転移
- 播種性転移
血行性転移は、がん細胞が血液に乗って流れていってしまいトラップされた臓器に転移巣を作ってしまうことです。
リンパ行性転移は、がん細胞がリンパ管に乗って流れていってしまいリンパ節に転移巣を作ってしまうことです。
播種性転移は、がん細胞がしこりの外側の膜を破ってお腹の中や胸の中にばら撒かれてしまうことにより転移してしまうことです。
その他にも、管腔内転移といって気道や胆管などを経由して転移する場合や、非常に稀ながん(可移植性性器肉腫)ですが接触性転移もあります。
血行性転移
Mechanical and anatomical theory
解剖学的にがん細胞が血液に乗って最初に通過する臓器に転移するという考え方です。
お腹の中にできたがんは門脈という血管(胃、腸、膵臓、脾臓からの血液を集めて肝臓に流す血管)に乗って、肝臓に転移しやすくなります。
一方お腹の中以外にできたがんは静脈に乗って、心臓に戻り次に血液が送られる肺に転移しやすくなります。
がん細胞も血液の流れがすごく早い部分には転移巣を作りづらいのですが、肝臓や肺などは比較的血液の流れがゆっくりな毛細血管が多いので転移巣ができやすいんじゃないかと言われています。
Seed and soil theory
がんの中には、上に紹介したMechanical and anatomical theory通りに転移しないものもあります。
がんにとって特別に相性が良い臓器があるものがあります。
Seed=種とSoil=土の理論とは、種(がん細胞)はどの土にも植えることはできるが、適した土(臓器)のみで成長できるという考え方です。
有名なのは、肥満細胞腫というがんが肝臓や脾臓に転移しやすかったり、前立腺癌が骨に転移しやすいことが知られています。
リンパ行性転移
しこりがある場所によって流れていくリンパ管の方向とはじめに行き着く主要なリンパ節が異なります。
基本的にはしこりに一番近いところのリンパ節に転移を作ります。
進行するとどんどん次のリンパ節に転移が進んでいきます。
最終的にはリンパ液は胸管という管を通って血液に入っていくので、肺にも転移を作っていきます。
播種性転移
これはお腹の中や胸の中でしこりが弾けてがん細胞が撒き散らされてしまうことによって起こる転移です。
消化管のがんや卵巣がん、肺がんなどのしこりの表面が破れてしまった時に起こりやすく、それによって腹膜炎や胸膜炎が起こることがあります。
まとめ
- 主に3つの転移の経路がある。
- 血行性転移、リンパ行性転移、播種性転移である。
- 転移の有無により治療の目的が変わってくる。
腫瘍が発生するリスク因子はあるのか?
腫瘍は遺伝子の変異(ミス)により起こる病気です。そのリスクを上げる要因がわかっているものもあります。
すなわち、このリスク因子を回避することが、ある特定の腫瘍を予防することにつながる可能性があります。
今回はその腫瘍が発生するリスク因子についてお話しします。
腫瘍の発生に関与する因子
腫瘍の発生に関与する因子は大きく4つあります。
- ホルモン(内分泌)の影響
- 物理的な刺激の影響
- 化学物質の影響
- 遺伝的影響
それでは一つ一つお話ししていきましょう。
1. ホルモン(内分泌)の影響
ホルモンはからだの内分泌腺と呼ばれる組織で作られる物質のことです。内分泌腺には生殖器、下垂体、甲状腺、上皮小体、膵臓、副腎があり、それぞれの組織で別々の作用を持つホルモンを作って出しています。
この中でペットの腫瘍の発生に関連している内分泌組織の代表が生殖器です。
すなわち、避妊手術、去勢手術をすれば防げる可能性がある腫瘍があります。
犬の避妊手術で防げる腫瘍
- 卵巣腫瘍
- 子宮腫瘍
- 乳腺がん
この中で特に多くの女の子で問題になるのは、乳腺がんです。
避妊手術を早くすると乳腺がんの発生率が下がります。
はじめの発情が来る前に避妊手術をした場合には0.5%、2回目の発情前に避妊手術をした場合には8%、2回目あるいはそれ以上発情が来てから避妊手術をした場合には26%乳腺がんになるリスクがあると言われています。(Schneider et al. 1969)
2回目の発情が来てしまった場合でも、2.5歳以下で避妊手術を受けた場合と2.5歳以上で避妊手術を受けた場合では、2.5歳以下で避妊手術を受けた場合の方が顕著な乳腺がんのリスク回避効果があると言われています。(Schneider et al. 1969)
猫の避妊手術で防げる腫瘍
- 卵巣腫瘍
- 子宮腫瘍
- 乳腺がん
やはり猫でも避妊手術により乳腺がんの発生リスクを下げることができます。(Misdorp et al. 1991)
避妊していない猫では7倍乳腺がんになるリスクが高まります。(Dorn et al. 1968)
避妊手術を生後6ヶ月までに実施した場合には91%乳腺がんになるリスクが減少し (OR 0.9, CI=0.03-0.24) 、1歳までに実施した場合には86%減少すると言われています (OR 0.14, CI=0.06-0.34) 。(Overley et al. 2005)
犬の去勢手術で防げる腫瘍
- 精巣腫瘍
- 肛門周囲腺腫
犬も精巣は人と同じように2つもっています。
精巣腫瘍は特に潜在精巣といって、子どもの時に陰嚢に精巣が落ちてこないで、お腹の中や股の皮膚の下に精巣があるような子で発生率が上がります。
去勢していない子では陰嚢を触ると精巣が2個触れるはずなので、それが1つしかないあるいは2つともない場合には潜在精巣の可能性が高いです(慣れていないとわかりづらいかもしれないので、獣医師に確認してもらいましょう)。
たまに、潜在精巣だとわかっていても去勢手術をしていない子もいますが、精巣腫瘍の中にはとてもタチが悪い(腫瘍が進行してから手術しても手遅れになる子がいる腫瘍)ものもありますので、わかっていたら腫瘍になる前に去勢手術をしてあげるのが賢明だと思います。
肛門周囲腺腫という名前は聞いたことがない方がほとんどだと思います。
肛門周囲腺腫は肛門周囲腺という皮脂腺が変化した細胞の良性腫瘍です。
去勢していない男の子にできることが多い皮膚にできる腫瘍です。
肛門の周りの皮膚にできることが多いですが、その他にもしっぽや太もも、陰嚢、包皮、股の間などの皮膚にもできることもあります。
猫の去勢手術で防げる腫瘍
- 精巣腫瘍
猫の精巣腫瘍の発生はもともと少ないです。
2. 物理的な刺激の影響
さまざまな物理的な刺激が発がんに関連している可能性が言われています。
これらの刺激がすべてのがんの原因となるわけではなく、ある特定のがんの一要因となっている可能性が言われています。
物理的な刺激となり得る要因
特にこの中で注意が必要なのは、日光(紫外線)と慢性炎症です。
日光に当たっている時間が長い白い猫ちゃんは、皮膚の扁平上皮癌というがんに注意が必要です。
特に耳や顔面などの毛が薄くて日光に当たりやすい部分に発生しやすいです。
このがんは初期の頃は一見して傷のように見えるのですが、進行してくると潰瘍のようになってきます。
なので、白い猫ちゃんは過剰に日光(紫外線)に当たらないように心がけることが予防につながります。
慢性炎症としてもう一つ注意しなくてはいけないのが、猫ちゃんのワクチンです。
あまり知られていないかもしれませんが、猫ちゃんはワクチン(厳密にはワクチン以外でも発生する可能性はあります)に関連して肉腫というがんができることが非常に稀にあります。
稀ってどのくらい稀かというと、10,000頭につき1-16頭の割合といわれています。 (Small Animal Clinical Oncology)
また、やっかいなのがこのがんは完全に手術で取りきるためには、物凄く大きく切除する必要があります。
背中にこのがんができてしまうと手術で完全に取り切るのが難しくなる場合があるので、猫ちゃんにワクチンを打つ時には背中には打たずに、肘や膝より下やシッポの先に打つ方が良いです。
これはもしこのがんになってしまった場合に、手術で完全に取り除くことがしやすくなるからです。
3. 化学物質の影響
発がんに関連した化学物質がいくつか知られています。
これらの物質もすべてのがんの原因となるわけではなく、ある特定のがんの一要因となっている可能性が言われています。
- タバコの副流煙
- 薬
- 除草剤
- 殺虫剤
タバコの煙と犬のがん
タバコの煙というと一番に思い浮かぶのは肺がんだと思いますが、犬ではタバコの副流煙と肺がんの関連性は弱いと言われています。(Reif et al. 1992)
しかしながら、長頭種の犬を飼っている場合には、鼻腔のがんのリスクが上がると言われているので (OR 2.0, CI 1.0-4.1)、タバコの煙には注意した方が良いかもしれません。(Reif et al. 1998)
タバコの煙と猫のがん
猫ではタバコの煙は口腔内扁平上皮癌の発生リスクをあげると言われています (飼い主が1日1-19本のタバコを吸う場合、RR 4.0, CI 1.1-14.8, P=0.037)。これは煙を吸うというよりは、毛についたタバコの煙の成分を舐めてしまうことによるのかもしれません。 (Bertone et al. 2003)
さらに、リンパ腫の発生リスクもあげると言われています(RR 2.4, 95% CI 1.2-4.5)。(Bertone et al. 2002)
やはり、タバコを吸う本数が多い場合や、猫が煙に曝されている期間が長い方がリスクが高くなるので、注意が必要です。
治療などに使うお薬や薬剤とがん
発がん性があると言われている抗がん剤(クロラムブシル、ドキソルビシン、シスプラチン)や免疫抑制剤(アザチオプリン)、検査に使うホルマリンへの暴露は注意が必要です。
その他の化学物質とがん
猫ちゃんのノミとり首輪やマグロの缶詰は猫の口腔内扁平上皮癌のリスクをあげると言われています。(Bertone et al. 2003)
フェノキシ系除草剤を使っていた庭をもつ家庭のスコティッシュテリアでは、膀胱移行上皮癌のリスクがあがる可能性が言われています (OR 4.42)。(Glickman et al. 2004)
4. 遺伝的影響
遺伝性のがんとして、原因となる遺伝子の変異がわかっているものは、ジャーマンシェパードの腎嚢胞性腺癌と結節性皮膚線維症です (BHD遺伝子)。(Lingaas et al. 2003)
まとめ
- 腫瘍が発生するリスクを知れば、予防ができる腫瘍もある
- 特に女の子は早いうちに避妊手術をすることで、乳腺がんになるリスクを減らせる!
- 上記でお家のペットや環境と当てはまることがあれば今から気をつけましょう
どうしてうちの子が「がん」に・・・
「がん」になった原因は食べ物や飼い方が悪かったからですか?
自分のペットが「がん」になってしまった時に、多くの飼い主さんから「どうしてがんになってしまったのか?」聞かれます。
みなさん、ごはんが悪かったのか?飼い方が悪かったのか?ご自分に原因がなかったかとても気にされます。
大丈夫です。みなさんが悪いことはありません。
一部の「がん」は予防ができたり、「がん」の発生リスクを上げたりする要因がありますが、ほとんどは自然にできてしまいますし、どんな子でもなる可能性がある病気です。
「がん」が発生するメカニズム
がんは遺伝子のミス(変異)が原因でなる病気です。
体を構成する一つ一つの細胞の中には、遺伝子(ゲノムの中のタンパク質の設計図の部分)が入っています。
これらの遺伝子にはミス(変異)が起きてしまうことがあります。
遺伝子のミス(変異)は例えば紫外線や放射線、化学物質やタバコの煙などの外的要因で起こることもありますが、正常な細胞分裂の途中でも起こってしまいます。
遺伝子はたくさんたくさんありますが、がん化に関連する遺伝子は特に細胞の分裂と増殖に関わる遺伝子のミス(変異)です。
これからの遺伝子はがん遺伝子、がん抑制遺伝子と言われています。
これらの遺伝子のミスがどんどん細胞に蓄積してくると、がん細胞が発生する可能性が高まります。
だから歳をとるとがんになりやすくなるんですね。
がん遺伝子
例えば、通常は細胞の増殖に関与している遺伝子にミスが起きてしまうと、常に細胞の増殖が活性化されてしまうことがあります。このようながん化を促進する遺伝子をがん遺伝子といいます。よくこれは車に例えられて、アクセルが踏みっぱなしになっている状態と言われます。
がん抑制遺伝子
精密機械などを作る工場と同じように、細胞にも遺伝子にミスがある不良品の細胞をはじくチェックポイントがあります。
がん抑制遺伝子はそのミスを修復したり、その細胞をそれ以上増やさないようにしたり、細胞を殺すことによって、カラダの中に不良品の細胞が増えないように働くタンパク質を作る遺伝子です。
よくこれは車のブレーキに例えられ、このがん抑制遺伝子のミス(変異)もがん化に関連します。
まとめ
- がんは遺伝子のミス(変異)が原因の病気。
- がん遺伝子の活性化や、がん抑制遺伝子がうまく働かないことは、がん発生要因となる。
「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」の違い
「良性」は転移しない腫瘍、「悪性」は転移する腫瘍
これが一番わかりやすい概念だと思います。その他にも下に示す特徴があります。
良性腫瘍
- 転移をしない
- 浸潤性(周囲の組織にグイグイ足を伸ばしていくこと)が
低い - ゆっくり大きくなる
- 治療後再発しにくい
悪性腫瘍
- 転移をする
- 浸潤性が高い
- 大きくなるスピードが速い
- 治療後再発の危険性がある
転移については、物凄く転移率が高い腫瘍から、悪性ですが転移率が低い腫瘍もあります。ですから、まだ転移していなければ、しっかり腫瘍をとってあげれば治ってしまうものもあります。悪性だからといって全て悲観的になる必要はありません。
なかには、しこりを見ただけで良性か悪性かわかると思っている飼い主さんもいらっしゃいますが、見たり触ったりしただけではわかりません。注意しなくてはいけないことは、一見悪そうに見えなくても悪性腫瘍のこともありますし、とても大きいしこりでも良性のこともあります。なので、しっかりと検査をしてもらうことが大切です。
そもそも「がん」ってなに?
「がん」とは「自分勝手に増えてしまう寿命がない細胞の塊」
動物のからだも人間と同じように、たくさんの細胞でできています。その細胞たちは、細胞が死んだり、細胞分裂(一つの細胞が二つになって増えていくこと)することにより新陳代謝を繰り返しています。
正常な細胞には寿命があり、一定回数細胞分裂を繰り返すと、それ以上は分裂できなくなります。一方、「がん細胞」は自分勝手にどんどん増えていき、厄介なことに無限に増殖することが可能です。
「がん」、「ガン」、「癌」の違い
ひらがなの「がん」、カタカナの「ガン」は同じ意味で使われ、どちらも悪性腫瘍をすべてひっくるめた言葉です。実は「がん」=「悪性腫瘍」には、専門的に下の3つのカテゴリーに分けられます。
- 上皮系悪性腫瘍
- 非上皮系悪性腫瘍
- 独立円形腫瘍
このうち1. 上皮系悪性腫瘍と、2. 非上皮系悪性腫瘍はそれぞれ別名があります。
1. 上皮系悪性腫瘍は別名「癌」(漢字で書く)、2. 非上皮系悪性腫瘍は別名「肉腫」と呼ばれます。
すなわち、
- ひらがな、カタカナの「がん」「ガン」=悪性腫瘍の総称
- 漢字の「癌」=悪性腫瘍のうちの、上皮系悪性腫瘍
ということになります。
「がんです」と「腫瘍です」は少し意味が違う
「がん」という言葉は、悪性の時にしか使いません。すなわち、獣医師から「がんです」と言われた時、それは「悪性腫瘍です」ということです。
一方、「腫瘍」という言葉は、良性、悪性どちらにも使います。すなわち、「腫瘍です」と言われた時には「良性」か「悪性」かをしっかり確認しておきましょう。